ブログ

  •  > 
  •  > 
  • 「23条照会」をご存知ですか?
  • 「23条照会」をご存知ですか?
    ほっかい法律事務所
    綱森 史泰

    「23条照会」(弁護士会照会)の制度をご存知でしょうか?

    弁護士法23条の2は,「弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる」,「弁護士会は,前項の規定による申出に基き,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」と定めています。これは,弁護士が依頼者から依頼を受けて受任している事件について必要な調査や証拠収集を行うために,弁護士会を通じて各種の団体に対して照会(問い合わせ)をして報告を求めるという制度であり,弁護士法23条の2により定められていることから「23条照会」と呼ばれたり,弁護士会が各種の団体に対して照会をする制度であることから「弁護士会照会」と呼ばれたりすることがあります。

    この23条照会の制度に関して,平成28年10月18日に最高裁の判決がありました(最判平成28年10月18日民集第70巻7号1725頁。判決文は裁判所のウェブサイトにも掲載されています。)。判決があった事件の内容は,依頼者から強制執行(財産の差押え)の依頼を受けた弁護士が,債務者の住所を調査するために弁護士会を通じて郵便局に対して転居届の提出の有無・内容について照会をしたところ,郵便局が報告を拒否したしたことから,弁護士会が原告となって郵便局に対して損害賠償及び報告義務の確認を求めたというものです。

    最高裁の判決では,弁護士会の郵便局に対する損害賠償請求は否定されましたが,判決文の中では,「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」と述べられており,23条照会を受けた団体は,正当な理由のない限り報告義務を負うものであることが明らかにされました。

    また,同判決に付された岡部喜代子裁判官の補足意見では,「正当な理由のない報告義務違反により不法行為上保護される利益が侵害されれば不法行為が成立することもあり得る」として,不当に報告を拒否した団体が報告拒否によって損害を被った者(依頼者)に対して損害賠償の責任を負う可能性もあり得ることが示唆されています。

    23条照会の制度は,例えば,交通事故事件に関して検察庁から実況見分調書の開示を受ける場合や,裁判所の判決に基づいて財産の差押えを行う場合に金融機関に対して預金の有無等を問い合わせる場合などに用いられており,弁護士が依頼を受けた事件について必要な調査や証拠収集を行う上で大変有効で重要な手段となっています。今回の最高裁判決を契機として,23条照会がより一層実効性のある制度となる方向性に進むことが望まれます。

    (追記)
    その後,平成30年12月21日の最高裁判決(最判平成30年12月21日裁判所ウェブサイト掲載)では,弁護士会が照会先に対して照会に対する報告義務があることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であると判示されました。この判決により,報告義務の有無について弁護士会と照会先との間で見解の相違が生じた場合に裁判で決着することは難しくなりましたが,今後も,弁護士会と照会先のそれぞれの適切な判断とお互いの協働によって,証拠収集のための重要な制度である弁護士会照会の実務運営が円滑に進められることを望みます。