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遺言・相続に関する民法の改正審議について 堀江・大崎・綱森法律事務所綱森 史泰現在,法務省内において,遺言・相続に関する民法の規定の改正について審議がなされています。
平成28年7月12日には,「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」が公表されて,これに対する意見公募の手続(パブリックコメント)が行われています。
中間試案における改正点は,1)配偶者の居住権を保護するための方策,2)遺産分割に関する見直し,3)遺言制度に関する見直し,4)遺留分制度に関する見直し,5)相続人以外の者の貢献を考慮するための方策の5つに大きく分かれていますが,いずれの点についても,改正が成立した場合には遺言・相続の実情に大きな影響を及ぼす内容になっています。
「遺産分割に関する見直し」の中には,配偶者の相続分の見直しに関する改正案が含まれています。現在,配偶者(亡くなられた方の夫・妻)の法定相続分は,遺産のうちの一定の割合と画一的に定められています。しかし,現在の法定相続分のみでは,長年連れ添った夫婦の具体的な貢献に見合わない場合があるのではないかということから,一定の場合に配偶者の相続分を増やすことが検討されています。
上記のような見直しは,残された配偶者の生活保障や実質的な公平への配慮という観点からは良いことのようにも思われますが,他方で,配偶者の具体的な貢献をどのように評価して,どのように相続分に反映させるのが適切かという点が問題となります。見直しの内容次第では,配偶者の相続分の算定をめぐる相続人間のトラブルが増加するという可能性もあるかもしれません。
「遺言制度に関する見直し」では,自筆証書遺言の方式緩和が検討されています。現在の遺言制度では,公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言と,自筆で書く自筆証書遺言があります。自筆証書遺言の場合には,全文を自筆で書かなければならないとされており,パソコンで作成して印刷した遺言書に署名押印をしても,有効な遺言とは認められません。このような厳格な方式が求められることから,特に高齢者の方などにとって自筆遺言証書が利用するのが難しい状況もあります。そこで,今回の中間試案では,財産(不動産や預貯金など)の特定に関する事項は,自筆でなくてもよいものとする改正が検討されています。
上記のような見直しは,自筆証書遺言を利用しやすくするという点ではメリットがあるものと思いますが,他方で,財産の内容を十分に確認することなく署名・押印してしまったり,遺言書の偽造や変造がなされるリスクが大きくなるのではないかという懸念もあります。
今回の遺言・相続に関する民法の改正は,まだ法律案となっているものではなく,法務省内において審議中のものですので,実際に法律が改正されるとしてももう少し先のことになりますが,多くの人に関わる重要な改正ですので,その動向に注目する必要があると思います。