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タワーマンションを利用した相続税の節税~監視強化・税制改正の影響 堀江・大崎・綱森法律事務所綱森 史泰タワーマンションを利用した相続税の節税については、近年、「国税庁が全国の国税局に対し、行きすぎた節税策がないかチェックを厳しくするように指示する」「総務省が固定資産評価基準の見直しを検討する」といった動きがみられます。
本記事では、タワーマンションを利用した相続税の節税について、法律的な観点から解説してみたいと思います。
なお、本記事はタワーマンションを使用した相続税の節税の是非や適否について述べるものではありませんのでご留意下さい。
まずは相続税とその計算に関わる相続財産の「時価」の意義から解説します。
相続税計算の前提となる「時価」
相続税の税額を計算するためには、相続財産の価額を求める必要があるところ,相続税法は、相続財産の価額について、「取得の時における時価」によるものと定めています(相続税法22条)。
相続税法には「時価」の定義はありませんが、裁判例等によれば、時価とは「財産の客観的な交換価値」(最判平成22年7月16日集民234号263頁)のことであり、不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味するものと解釈されています。
「時価」と「財産評価基本通達」の関係
上記のとおり、相続税法上、相続財産の評価は「時価」によるものとされておりますが、現実には、相続財産の「時価」を客観的に評価して、一義的に確定することには困難なところもあります。
そこで、国税庁長官は、納税者間の公平、納税者および課税庁の便宜、徴税費用の節減等を考慮して、財産の評価に関する基本的な取扱いを規定した「財産評価基本通達」を定めており、多くの場合には、相続財産の評価はこの通達に従って行われています。
通達では、原則として、土地はその土地の面する路線に付された路線価を、建物は固定資産税評価額をベースに評価するものとされています。
このような通達に基づき評価した不動産の価額(=通達による「時価」)が、実際の不動産の取引価格(=実際の「時価」)よりも低い価額となる場合には、現金等の財産を不動産に変えることにより、相続財産の「時価」額を減少させて、相続税の負担を軽減することができることになります。
タワーマンションを利用した相続税の節税の仕組みは、このような通達に基づく評価額と実際の取引価格との間の差額を利用するものです。
通達によらない財産評価
タワーマンションを使用した相続税の節税の仕組みは上記のとおりですが、財産評価基本通達には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という例外的な定めもあります。
したがって、タワーマンションを利用した相続税の節税に関し、通達による評価を用いることが「著しく不適当」であると課税庁が判断した場合には、通達による評価が否認される可能性があります。
この点、裁判例でも、通達によらないことが相当と認められるような「特別の事情」がないにもかかわらず課税庁が通達によらない評価を行うことは、納税者間の負担の公平を欠くことになり許されないが、通達によらないことが相当と認められるような「特別の事情」のある場合には、他の合理的な時価の評価方式によることが許されるなどと判断されています。
タワーマンションの「時価」の評価
タワーマンションについて通達による評価が「著しく不当」であると判断された場合、課税庁としては、その購入価額が実際の「時価」であると主張することが考えられます。
実際、裁判例(東京地判平成4年3月11日判時1415号73頁)では、マンションの購入価額が「時価」であるとの課税庁側の主張が認められたものがあります(同事件の上告審である最判平成5年10月28日税務訴訟資料199号670頁でも、「本件マンションの相続税法22条にいう時価がその購入価額であるとし、本件各更正等に違法はないとした原審の判断は、正当として是認することができる」とされています)。
また、国税不服審判所の裁決例でも、マンションの取得価額をもって「時価」と認められた例があります(国税不服審判所平成23年7月1日裁決)。
ただ、これらのケースは、相続税の負担を回避する目的で、相続開始の直前にマンションが購入され、相続開始の直後に市場価格で売却されていることなどの「特別の事情」があったことから、その購入価格が「時価」であるとされたものであり、タワーマンションの評価一般に直ちに当てはまるものではありません。
これに対し、相続税法における建物の評価のベースとなる固定資産税評価額(固定資産評価基準)が見直された場合には、タワーマンションの評価一般に影響することになります。
次にこの点について説明します。
固定資産評価基準とは?
「固定資産評価基準」は、地方税法388条1項の規定に基づいて総務大臣が「告示」という形式で定めるものであり、固定資産税の課税に当たり用いられるものです。
すなわち、固定資産税を課する市町村の長は、固定資産の価格を決定する場合には、固定資産評価基準によってこれを行わなければならないとされており(地方税法403条1項)、これにより決定された固定資産の価格が固定資産課税台帳に登録されることになります(地方税法411条1項)。
この登録価格に一定の税率を適用して算出された税額が、固定資産税として課税されることになります。
固定資産評価基準と相続税の関係
上記のとおり、固定資産評価基準は、基本的には固定資産税の課税に当たり用いられるものです。
しかしながら、先述のとおり、財産評価基本通達では、建物(マンション)は固定資産税評価額をベースに評価するものと定められていることから(「家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額……に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する」)、固定資産評価基準が変更されると、固定資産評価額だけでなく、相続財産の評価や相続税額にも影響が及ぶことこなります。
平成29年度税制改正がタワーマンションを利用した節税に与える影響
平成29年度税制改正では、地方税法が改正され、タワーマンション(居住用超高層建築物)に対する固定資産税額が、実際の取引価格の傾向を踏まえたものに見直されることとなりました。
しかしながら、上記の見直しは、固定資産税額等の計算に関するものであり、タワーマンションの固定資産税評価額(固定資産評価基準)自体を変更するものではないことから、相続税法上の「時価」に関しては直接影響を及ぼすものではありません。
ただ、今後、相続税法上のタワーマンションの「時価」に影響を及ぼすような固定資産評価基準や財産評価基本通達の見直しが行われる可能性はありますし、先述のとおり、通達によらない個別の財産評価による課税がなされる可能性もありますので、引き続き留意が必要な状況にあるといえます。
本記事ではタワーマンションを利用した相続税の節税について解説しました。
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