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  • 交通事故の自賠責保険に対する「被害者請求」とは?
  • 交通事故の自賠責保険に対する「被害者請求」とは?
    ほっかい法律事務所
    種田 紘志

    皆さんは交通事故の被害者として賠償を受けるにあたり、相手方の任意保険会社を通じてではなく、ご自分で直接自賠責保険にして賠償を求めることもできることをご存知でしょうか。

    交通事故賠償においては、このような請求を被害者からの直接的な請求であることから「被害者請求」と呼称しています。(保険会社の担当者等は、自動車損害賠償保障法(自賠法)16条に基づくことから、「16条請求」、「16条」という呼び方をすることもあります。)

     

    今回は、自賠責保険に対する被害者請求や異議申立て、そして被害者に過失があった場合の自賠責保険の支払基準ついてお話します。

     

    自賠責保険に対する被害者請求について

    通常、加害者が任意保険に加入している場合は、当該任意保険会社が全ての損害賠償について一括して対応します(被害者の方に相応の過失が認められるような場合には対応がなされないこともあります。)。

    そして、対応の後に、自賠責保険から支払われるべきであった(支払を受けることができた)範囲の賠償について、任意保険会社が自賠責保険に対して請求し任意保険会社が一部を回収するというような流れになっています。

    もっとも被害者側が希望すれば、自ら直接自賠責保険に対して自賠責保険によって補償される範囲について請求することができます。

    これを被害者請求と呼びます。

     

    交通事故で被害に遭われた方の中には、症状が残存・固定した状態で治療が終了しているのに一向に相手方の任意保険会社から後遺障害の等級認定手続(※簡単に言えば残存した症状の内容・程度に応じた等級付けです。1〜14級まであり、番号が小さいほど重たい後遺障害と扱われより高額の賠償金が支払われるものです。)に関する案内がされない、というような方が少なくありません。

    このような場合には、もちろん保険会社に働きかけをして等級認定手続をとるように促すという手段もありえますが、被害者請求に切り替えてしまった方がスピーディーに認定手続が進むということがあります。

    また、被害者請求に切り替えることにより、実際に動いてくれているのかわからない相手方保険会社に任せきりとなることなく、状況を把握しながら自賠責調査事務所(等級認定に関する調査を行う機関)と直接やりとりを行うことが可能となるというメリットもあります。

    このように、被害者の方にとって被害者請求は適切な賠償を受けるための便利なツールとして使えることがあります。

     

    自賠責保険の判断に対する異議申立てについて

    また、たとえ相手方保険会社が後遺障害の等級認定手続を適切に進めていたとしても、自賠責保険の後遺障害等級認定結果に対して納得ができないという場面もありえます。

    このような場合には「異議申立て」という手続により、より高い等級を獲得する(非該当との判断がなされた場合には等級認定がなされる)ことができる場合があります。

    【事例】後遺障害等級認定結果に対して異議申立てが認められたケース

    一例を挙げますと、交通事故に遭い脊柱変形障害の後遺障害を負った被害者の方の自賠責保険後遺障害等級異議申立てを行い、これが認められて8級から6級に変更になった事例です。

    当初、自賠責保険被害者請求を行うにあたり後遺障害診断書を提出しましたが、脊柱変形障害については「脊柱に中程度の変形を残すもの」として、8級相当であるとの認定でした。

    しかし、後遺障害診断書に記載されている脊柱の幅の数値を計算すると、被害者の方の脊柱の変形の程度は「脊柱に著しい変形を残すもの」として、6級の認定がされるべきものでした。

    等級認定を担当する自賠責調査事務所の調査員に問い合わせると、「後遺障害診断書を記載した医師は脊柱の幅の数値を適切な図り方で計測していない。当職がお預かりした画像を正しい方法で図りなおした結果、8級に相当する変形しか認められなかった」との説明がありました。

    しかし、医師でもない調査員が計測した数値と医師が計測した後遺障害診断書の数値、どちらが信用できるかは比較的はっきりしているものと思います。

    そこで診断書を作成した医師と面談し、計測方法に問題がないことを確認した上で等級異議申立て行った結果、6級の後遺障害が認定されました。

    このように、自賠責保険の等級認定は医師などの専門家が直接判断するのではなく単なる調査員が障害の程度を評価するため、時には信用性に欠ける結果となる場合があります。

    そのような場合には異議申立てを行うことで専門家により構成される「審査会」で再度審査を受けることができる可能性があり、今回のように等級が変更になることもあるのです。

     

    被害者に過失がある交通事故における自賠責保険の支払基準

    次に、被害者に過失があった場合の自賠責保険の支払基準についてご説明します。

     

    このような場合にも自賠責保険の被害者請求を行った方が有利にことが進む場合があります。

    事例を元に詳しくご説明していきます。

    【事例】被害者に大きな過失があったケース

    被害者に大きな過失が認められる交通事故の事案で自賠責保険の被害者請求を行ったところ、8割相当の保険金が支払われた事例がありました。

     

    事故・症状につきましては、被害者の方は歩行中に車にはねられ、重い高次脳機能障害が残ったというものでした。

    しかし、警察が作成する実況見分調書等の客観資料から認められる事故状況からは、被害者の方に7割程度の過失が認められる事案でした。

    そこで、まず自賠責保険に被害者請求を行ったところ高次脳機能障害が残存したとして、後遺障害等級5級の認定がなされました。

    そして、自賠責保険会社から5級に相当する慰謝料・逸失利益の金額の8割(1,200万円ほど)が支払われました。

     

    自賠責保険の「支払基準」

    事例では被害者請求を行い約1,200万円ほどが自賠責保険会社から支払われたわけですが、被害者に大きな過失があるにもかかわらず、なぜこれだけの額の自賠責保険が支払われたのでしょうか。

     

    これは、自賠責保険の支払い金額が「支払基準」に基づき保険金が支払われるためです。

    この支払基準においては、交通事故の被害者が簡易に最低限の補償を受けられるようにとの自賠法の趣旨から、被害者に過失がある場合であっても重大な過失(7割以上の過失)が無い限りは保険金額は減額されません。

     

    また、被害者側に7割以上の過失がある場合であっても10割の過失がある場合でない限り保険金額は減額はされますが、一定程度はきちんと支払われます。

    後遺障害部分についての被害者の過失に応じた自賠責保険金の減額割合は以下のとおりです。

    自賠責保険金の減額割合

    ご紹介した事例では上記の「7割以上8割未満」の過失があると認定されたため、2割が減額されるにとどまり、1,200万円という高額の保険金が支払われる処理になりました。

    このケースについて訴訟を提起した場合、過失相殺により7割が減額されるなどして賠償金は上記保険金額の3分の1程度しか認められなかっただろうと思われます。

     

    このように被害者に大きな過失が認められる場合であっても、自賠責保険はそれほど割り引かれることなく支払われますので、このような場合には訴訟ではなく自賠責保険の被害者請求を行ったほうが有利になることもあります。

     

    自賠責保険の被害者請求については当事務所までご相談下さい

    自賠責保険の被害者請求や異議申立てによって等級認定を覆すためには、単に異議申立ての手続きをとって異論を唱えればよいというものではありません。

    ある程度専門的な知見を基にして異議申立ての根拠となる追加証拠を揃えるなどして適切に申立てを行う必要があります。

    そのため、異議申し立てを行う場合は異議申立ての経験が豊富で効果的なノウハウを蓄積している弁護士などに相談することをお勧め致します。

     

    当事務所では、多数回の異議申立ての経験があり、効果的な異議申立てのノウハウも蓄積しております。

    また、被害者請求のメリットを踏まえて、事案に応じて適宜被害者請求の代行サポートも行っております。

     

    札幌のほっかい法律事務所では交通事故の無料相談を行っておりますので、もし、自賠責保険の後遺障害等級認定結果に疑問を感じ専門家にチェックしてもらいたいといった場合や、被害者に過失がある場合の自賠責保険の被害者請求でお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。