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  • 年金や預金を家族や親族が横領していた場合の対応方法→刑事処罰について
  • 年金や預金を家族や親族が横領していた場合の対応方法→刑事処罰について
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    「認知症の父親と同居して面倒を見ている兄夫婦が、父親の年金や預金などの財産を勝手に引き出して使い込んでいるようだ。」

    最近このように勝手に預金を引き出していたなど、高齢者の親族による横領に関する相談を受けることが増えているように感じます。

    親族による横領被害は、この相談のように生前に発覚するケースもあれば、亡くなった後に遺産分割協議の中で親族による横領が明らかになることもあります。

    家族が年金や預金を横領していた場合、被害金の回収のためにどのように対応すべきか、また親族が横領した場合にその刑事処分がどのようになるのかについてお話します。

    家族や親族による年金などの横領が発覚した際に被害金を取り戻すための方法は?

    横領が発覚した際に横領されたお金を取り戻すための方法として、横領がいつ発覚したのかによって、いくつかの対応が考えられます。

    発覚が被害者の生前、死後の2つのケースについて、それぞれの対応策をご説明していきます。

    被害者の生前に横領が発覚したケース

    生前に発覚したケースについては、被害者本人に十分な判断能力が残されていれば、ご本人が弁護士に依頼するか、自分で交渉に当たるなどして被害の救済に務めることになります。

    被害者本人の判断能力が不十分であれば、成年後見制度等(認知症や知的障害、精神障害により判断能力が十分でない場合に、裁判所が選任する成年後見人等がご本人に代わって、ご本人の財産を管理し、ご本人の身上を監護するなどして、ご本人を法的に支援する制度)を利用します。

    冒頭の相談のケースで言えば、お父さんの成年後見の申立を行い、お父さんの成年後見人(このような横領が疑われるケースでは,多くは弁護士などの専門職が成年後見人として選任されます)を選任した上で、その成年後見人が加害者とされる親族に対する損害賠償請求等を行うことになります。

    このように成年後見の開始は、それまで財産管理をしていた親族から成年後見人に管理権限を移すという意味合いもあるため、例えば親族による横領が疑われるという場合にも、成年後見の申立てを行うことで、横領被害の拡大を防ぎ、場合によっては横領被害を未然に防止することにもなります。

    被害者の死後に横領が発覚したケース

    被害者の死後に発覚したケースについては、被害者本人の損害賠償請求権等は、相続人に法定相続分に応じて相続されます。

    このような場合には、相続人自身が損害賠償請求等を行うこともできますが、交渉等が上手く進まないときには、相続人が弁護士を依頼して、損害賠償請求を行うことがあり、弁護士としてこのような場面で、相続人に損害賠償請求のお手伝いをすることもあります。

    損害賠償請求の方法として、相続人の中に加害者も含まれる場合には、その加害者の相続分の中から横領金額分を差し引いた内容の遺産分割を成立させる方法や、端的に加害者に対して損害賠償金等を払わせる方法があります。

    家族や親族が年金などを横領・着服した場合の刑事処罰はどうなるのか?

    日本の刑法には、親族相盗例という特例が定められており、親族間で発生した一部の犯罪については、その刑が免除されるか、親告罪(被害者等からの告訴がなければ公訴提起できない犯罪のこと)と扱われることになります。

    親族相盗例は「法は家庭に入らず」という政策的配慮に基づく特例とされており、窃盗罪、詐欺罪等のほかに横領罪にも準用されています。

    刑が免除されるか親告罪と扱われるかは、どの親族関係の近さによって区別されており、配偶者、直系血族、同居の親族との間の横領行為については、刑が免除され、これら以外の親族間での横領行為については、親告罪と扱われることになります。

    冒頭の相談のケースでは、お父さんとお兄さんは直系血族ですので、お兄さんが横領行為を行っていたとしても、その刑は免除され、具体的には有罪判決は受けるものの、刑が科されることはなく、懲役刑等の刑罰に服することはなくなります。

    親族相盗例は成年後見人になっている親族にも適用されるのか?

    このように、親族間で横領行為が行われたとしても、親族相盗例により、刑が免除されるか、親告罪として扱われることになりますが、横領した親族が成年後見人だった場合にも、この親族相盗例の適用はあるのでしょうか。

    この点については、最高裁判所第一小法廷平成20年2月18日判決(刑集第62巻2号37頁)という有名な判例があります。

    この判例の事案は、未成年後見人であった親族が横領行為を行った事案ですが、最高裁判所は、未成年後見人は、未成年者本人と親族関係にあるかどうかの区別なく、等しく未成年者本人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることから、未成年後見人の後見事務は公的性格を有するものであるとして、「法は家庭に入らず」という親族相当例の趣旨を準用して、刑を免除する余地はないとしたのです。

    裁判所の指摘する後見人の公的性格というものは、成年後見人にも共通するものですので、成年後見人についても、親族相盗例の準用の余地はないと考えることになります。

    冒頭の相談のケースでは、お兄さんが横領をしていたとしても、刑は免除されることになりますが、お兄さんが成年後見人に選任されていた場合には、刑の免除が認められなくなるということです。

    同じ人間が同じ行為をしたのだとしても、刑事処罰を受けるかという点では大きな差が生まれます。

    その意味では、最高裁判所は、後見人となっている親族に重い責任を課したと言うことができます。

    成年後見人になっている親族が横領した場合の被害金の回収方法は?

    刑事処罰としては、このように刑の免除等は認められないとして、民事の問題はどのようになるでしょうか。

    成年後見人が横領をした場合には、成年後見人であった親族に対する損害賠償請求が問題となります。

    後見人による横領の事実が発覚した場合には、その後見人は裁判所によって解任され、新たに選任される成年後見人(多くの場合は弁護士等の専門職後見人です)によって、損害賠償責任を追及されることになります。

    このように親族の横領による損害賠償請求のために成年後見人に選任された場合は、横領された金額の回収がメインの業務となりますので、成年後見人としては、通常は交渉による解決を目指し、交渉が不成立に終わる場合には損害賠償請求の民事訴訟を提起し、勝訴判決を得てから、さらに強制執行として預金の差押手続や不動産競売手続まで行うことで横領された金額の回収を諮ることになります。

    成年後見人だった親族による横領が発覚した場合には、他の親族が取るべき対応としては、管轄する家庭裁判所に成年後見人の解任審判を申し立てると共に、新しく選任された成年後見人が被害金の回収を進める際に、成年後見人に対し必要な情報提供をするなどの協力をするということになります。

    年金などの横領被害を家族間で起こさないために早めの法律相談を

    当事務所では成年後見について申立の代理業務も行っており、親族による横領が発覚した場合や親族による横領の疑いがある場合の法律相談にも対応しています。

    成年後見申立を行う際には申立書を作成するだけでなく、後述するとおり様々な書類を用意する必要があり、非常に時間や手間がかかりるため、専門家に依頼するのが確実です。

    お困りの方、相談したい方はお気軽にご相談ください。