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  • 交通事故による加重障害。損害賠償の算定方法について
  • 交通事故による加重障害。損害賠償の算定方法について
    ほっかい法律事務所
    堀江 健太

    交通事故により怪我を負った場合、治療費、入院雑費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益等を請求することになりますが、このうち後遺障害慰謝料と逸失利益は、後遺障害が残った場合に限り請求することができる損害項目です。

     

    上記損害項目のうち、金額が大きくなるのが後遺障害慰謝料と逸失利益(将来得られるはずであった収入が減少することによる損害)であり、その意味でも交通事故事案の満足いく解決には後遺障害の知識が必須となります。

     

    今回は後遺障害における加重障害についてのお話です。

    加重障害の事例と合わせながら、加重障害の場合の損害額の算定の方法についてご説明いたします。

     

    加重障害とは?

    加重障害は、自動車損害賠償保障法施行令第2条2項に規定されています。

     

    加重障害とは、「既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合」をいい、その場合の自賠責保険金は、「当該後遺障害の該当する・・・金額から、既にあつた後遺障害の該当する・・・金額を控除した金額とする。」ことが規定されています。

     

    大雑把にいうと、加重障害は既に身体障害があった方が交通事故に遭い、交通事故によって元々の身体障害が悪化したような場合に問題となりえます。

    加重障害の事例

    実際に、後遺障害の知識のうち加重障害に関する知識が必須となる事例について見ていきましょう。

     

    【交通事故よる脳損傷後の後遺症につき後遺障害等級3級が認定された事例】

    こちらの事例は、歩行中に車にはねられて脳に損傷を負い、全身に麻痺が残ったという方からの依頼でした。

     

    当事務所で受任する前に、依頼者の方で後遺障害の申請をしたところ「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として5級が認定されたのですが、元からあった障害について「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として7級に該当するものとされてしまったため、5級の自賠責保険金(1,574万円)から7級の自賠責保険金(1,051万円)を引いた金額しか受け取れない状況でした。

     

    受任後、主治医と面談して依頼者に残った障害の詳細について確認するとともに、症状が固定する前に作成された医療記録を詳細に検討したところ、依頼者が日常的な介護を要する状態であることや就労はできないことを示す記載を複数発見しました。

     

    3級の認定基準は「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」というものですので、上記の医療記録を添付し3級に該当する旨を異議申立書に詳細に記載した結果、無事3級が認定されました。

     

    また、既存障害についても事故に遭う前の医療記録において、依頼者の歩行能力に問題は無いという記載があることを発見しました。

     

    9級に該当する場合の具体例として認定基準の中で挙げられているものに「日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく速度も遅いとともに脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの」というものがあります。

     

    依頼者の既存障害が該当するのはせいぜいこのレベルであって、7級に該当するほどのものではないことを異議申立書に詳細に記載した結果、既存障害については無事7級から9級に変更になりました。

     

    その結果、依頼者は3級の自賠責保険金(2,219万円)から7級の自賠責保険金(616万円)を引いた金額を受け取ることができました。

     

    加重障害に該当する場合の損害賠償額の算定方法と事例

    次に加重障害の損害賠償額の算定方法についてご説明します。

    加重障害の場合の自賠責保険金

    加重障害に該当すると判断された場合に自賠責保険から支払われる後遺障害に関する保険金は、事故後悪化した後遺障害に対する金額からもともとあった後遺障害に対する金額が差し引かれた金額になります。

     

    後遺障害が残ったとき、自賠責保険から受け取れる保険金額は自動車損害賠償保障法施行令に規定されています。

     

    例えば、後遺障害3級では金2,219万円、後遺障害5級では金1,574万円、後遺障害7級では金1,051万円、後遺障害9級では616万円と規定されています。

     

    上記の解決事例は、弁護士受任前は「既存障害7級、事故後の障害5級」から弁護士受任後に「既存障害9級、事故後の障害3級」と変化した事例です。

     

    自動車損害賠償保障法施行令第2条2項の規定に基づき、自賠責保険の金額を算出すると次のようになります。

    弁護士受任前:金1,574万円(5級)-金1,051万円(7級)=金523万円

    弁護士受任後:金2,219万円(3級)-金616万円(9級)=金1,603万円

     

    弁護士受任後に自賠責保険だけでも金1,000万円以上増えたことになりますが、実際の影響はもっと大きいです。

    弁護士が受任し保険会社と示談交渉する際に用いる裁判基準は、自賠責保険支払基準で算定する場合に比べ、金額が高くなることが一般的であるからです。

     

    加重障害は損害賠償額の算定が難しいケースも

    もっとも、このように単純に算定できる事案ばかりとは限りません。

     

    例えば、①学生時代に事故に遭い、手足に後遺障害3級相当の麻痺が残ったが、残された機能を活用し就職、その後、40歳のときに再び交通事故に遭い、後遺障害1級相当の麻痺が残ったような場合、②12年前の事故でむち打ちになり、後遺障害12級相当の頚部神経症状(痛みや痺れ)という後遺障害が残ったが、その後、症状が改善してきたところに再び事故に遭いむち打ちとなるような場合には単純に金額を算定することはできません。

     

    ①の事案では、特に冒頭でご説明した逸失利益(将来得られるはずであった収入が減少することによる損害)が問題となります。

     

    自賠責保険支払基準上、後遺障害1級~3級では、後遺障害によって事故前の労働能力を100%失うと考えられています。

    基準を単純に当てはめると、労働能力を100%失っている状態で、さらに事故にあったことになるので、逸失利益は無し、となりかねません。

     

    ②の事案では、むち打ち(神経症状)の場合に認定されうる後遺障害等級が12級と14級に限られているところに問題があります。

    仮に今回の神経症状(痛みや痺れ)が前回事故以上の症状であるとしても、認定されうる後遺障害等級がそもそも存在しないのです。

     

    これらの場合、示談交渉時の保険会社からの提示はかなり厳しい内容になり、裁判を行わなければ解決できないことが想定されます。

     

    加重障害のご相談は当事務所までご相談ください

    交通事故の後遺障害については、医師と面談したり過去の医療記録を取り寄せたりして、その内容について精査した上で異議申立を行うことにより適切な後遺障害の認定を受けることができる場合があります。

     

    当事務所の弁護士は、多様な後遺障害に対応すべく日々研鑽を積んでおります。

     

    交通事故のご相談は電話・メール・来所を問わず無料で行っておりますので、自賠責の後遺障害の認定がおかしいと思われる方は是非ご相談下さい。