ブログ
-
同一労働同一賃金について ほっかい法律事務所種田 紘志弁護士の種田です。
今回は最近話題となっている、「同一労働同一賃金」という点について解説します。
同一労働同一賃金についての実際の判例や、企業が対応するべきことなどにも触れていきますので、ぜひ参考にしてください。
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金とは、同一の業務を行っているにもかかわらず、賃金の差が設けられることは許されないという考え方のことです。
近年、派遣社員や有期雇用の方の待遇面などで問題になることが多くなっていることから、この議論が進んできました。
実際、政府において必要な対策を講じなくてはならないという内容の「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」と言う法律(2015年9月16日施行)も存在します。
また、2019年4月に施行された働き方改革には、同一労働同一賃金の是正が盛り込まれており、2020年4月より順次大企業⇒中小企業に適用されていくこととなります。
同一労働同一賃金が問題になった裁判例
同一労働同一賃金の問題に関して、平成29年9月にある判決が東京地裁から出されました。
(ニュースにもなりましたのでご存じの方もいるかと思います。)この事件は、正社員と非正規社員(有期雇用労働者)との間で、労働内容は概ね同じにもかかわらず賃金格差が設けられていることが問題となったものです。
※正社員と非正規社員との間において、非正規であることを理由とした労働条件の違いについては、職務の内容等に照らして不合理なものとなってはいけない、という労働契約法の点が問題となっております。
この事件においては、非常に多くの労働条件が問題となっています。
(例えば年末年始勤務手当、早出勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇など、10項目にも及びます。)これらについては、その性質等が一つ一つ検討されることとなりましたが、最終的に不合理と判断されたのはこのうち4項目のみとなりました。
また、その中には夏期冬期休暇が含まれていたことから、金銭的な請求という意味では2項目(の一部)のみ請求が認められるに留まりました。
ですので、この裁判例の評価としては、非正規の方の格差を是正する判決という評価もある一方で、一定の区別が認められた判決という評価も出来るかと思います。
また、平成30年6月1日にはこの論点に関する2つの最高裁判決(判例)が出されました。
通称ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件、という2つです。
⑴ ハマキョウレックス事件
この事件では、有期での雇用契約を締結していた契約社員が、無事故手当、通勤手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当などの諸手当の支給や、定期昇給、退職金の支給、賞与を含めた正社員との同一待遇を求めた事案です。
判決理由はかなり複雑になるので省略させて頂きます(概ね、後述する見直しの方法と同様の基準です)。
労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものか否か、と言う点が大きな枠組みとなり、通勤手当や無事故手当、作業手当などについて、正規非正規で格差を設けることは不合理な相違であり許されない、との判断がなされました。
⑵ 長澤運輸事件
この事件では、定年後再雇用されている社員(定年後嘱託社員)が、無期労働契約を締結している社員(定年前の正社員)と労働条件の相違があるとして、賃金の是正を求めた事案です。
判決理由は⑴のハマキョウレックス事件と同様ですが、精勤手当等について支払を認めたものです。
同一労働同一賃金について企業がすべき対応とは?
同一労働同一賃金は、大企業では2020年4月1日から、中小企業では2021年4月より適用され、正規雇用と非正規雇用の従業員・社員との待遇・賃金格差についての見直し、是正が求められていくこととなります。
もっとも、これはあらゆる条件を同一にせよ、と言うわけではありません。
求められるのは、あくまでも不合理な待遇差の解消です。
この点で参考となるのは、厚生労働省が出している「同一労働同一賃金ガイドライン」です。
このガイドラインでは、基本給や賞与、各種手当てについて、どのような対応をすべきか、どのような支給方法を採るべきかと言った言及がなされています。
この同一労働同一賃金に違反した場合、現在のところ、罰則が用意されているわけではありません。
しかし、何らの是正も行わない場合、不合理だと主張する労働者からの損害賠償請求という形で差額の支給が求められる可能性があります。
この請求がなされて、仮に判決まで出てしまうと、使用者である企業にとっては、単に賠償義務を負うのみならず、風評、評判にとっても悪影響が及んでしまいかねません。
またこのような風評が広まると、新入社員の応募もなくなるおそれがあるなど、将来にとっても悪影響となる可能性があります。
罰則が無いからと言って何もしない、ということは避け、法に沿って、一度賃金制度を見直すことをおすすめします。
具体的な方法については次の項目にてご説明します。
同一労働同一賃金の実務上の注意点とは?
同一労働同一賃金確認のポイント・流れは概ね以下のような手順になります。
⑴ 現状の賃金格差の有無の確認
当然ですが、見直しのスタートは現状の確認からです。
現状正規非正規との間でどの範囲で労働条件の差があるか(そもそも正規非正規の差があるかも確認の必要はありますが)を確認します。
労働条件とは賃金だけを指すものではありませんので、休暇も含めた差の有無を確認します。
⑵ 待遇差がある場合に差の理由の確認
待遇差がある場合には、なぜ、そのような差を設けているのかを確認しましょう。
この理由すら説明ができないという場合には、待遇差が不合理との結論となる可能性が高くなります。
⑶ 待遇差を設ける理由の合理性の確認
次に、この差の理由について、「合理的」なものといえるか、不合理では無いといえる かの検討を行います。
以下にいくつかの項目について前記のガイドラインで挙げられた合理性判断の例を紹介します。
ア 基本給
例えば勤続年数に応じて基本給を決めている会社における有期雇用者が入社から通算した勤続年数を基に基本給を決めている場合は問題とはならないと考えられます。
反面、更新などを一切考慮せずに支給している場合には問題となります。
イ 賞与
賞与を会社の業績等に応じて決定している場合に、正規非正規にかかわらず、この業績に応じた賞与を支給している場合には問題ありません。
反面、この基準を採用しているにもかかわらず、非正規社員には賞与を支給しないと言った場合には問題となります。
ウ 役職手当
同じ役職に就いている正規非正規労働者について、正規労働者にのみ手当を支給する、というのは問題となります。
⑷ 合理性が担保されるような制度設計にするために、就業規則(賃金規程)等を改訂する
⑶に挙げたような不合理な待遇格差が存在する場合、この制度を改める必要がありますので、就業規則(賃金規程を)改訂する必要があります。
しかし、安易にその給与を支給しないと言った対応をしてしまう違法な賃金減額との評価をされかねませんからその点での注意も必要となります。
同一労働同一賃金の問題は専門家の目を通した検討を
同一労働同一賃金が問題になった裁判例でも見てきたように、非正規の方の格差というものは、一部は不合理だけれども、他の部分は合理的との結論になる可能性があります。
そのため、格差が生じているものの性質等から慎重に検討する必要があります。
当事務所においても労働者の方からのご相談を受け付けております。
労働条件に関し差があるけどこれは妥当なのか、とお悩みの方は是非一度ご相談下さい。