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  • 交通事故によるヘルニア、後遺障害等級の認定に関する問題点
  • 交通事故によるヘルニア、後遺障害等級の認定に関する問題点
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    交通事故により椎間板ヘルニアを発症した方からの相談が増えています。

    椎間板ヘルニアが問題になる事例では、自賠責保険の後遺障害等級認定の手続きなどの場面で、被害に見合った認定を得られていないことが多く、被害者が適切な賠償を得られていないという実態があると感じています。

    今回は、適切な認定が得られた以下の2つの事例を元に、椎間板ヘルニアの後遺障害等級の認定に関する問題点と受傷後の注意点についてまとめたいと思います。

    【事例1】異議申立てにより,非該当から12級になったケース

    【事例2】民事訴訟により,14級から12級になったケース

    交通事故によるヘルニアで後遺障害等級が認められた事例

    【事例1】 異議申立てにより,非該当から12級になったケース

    このケースでは、交通事故後から発生した頚部痛や左腕のしびれが症状固定後も残存し、その発生原因として、頚椎椎間板ヘルニアの診断を受けていました。しかし、自賠責保険による当初の認定結果は「非該当」の結果、つまり後遺障害には該当しないという認定結果でした。

     

    神経症状についての後遺障害等級の認定

    一般的に、しびれや疼痛などの神経症状が残存した場合の後遺障害等級については、神経症状の残存が医学的に「説明可能」なものが14級に、医学的に「証明可能」なものが12級に該当するとされています。

    ここで、医学的に「証明可能」というのは、画像検査の結果などの「他覚所見」によって神経症状の原因が確認できる状態をいうとされているため、後遺障害等級の認定のためには、他覚所見の有無が重視される傾向があります。

    ただし、自賠責保険による後遺障害等級の認定手続では、治療状況や症状経過の中身も重視される傾向にあり、治療期間中の通院頻度が低かったり、通院が不規則であったりすると、将来的にも回復困難な障害とはいえないとして、「非該当」とされることも多くあります。

     

    「非該当」の理由は・・・

    このケースで、自賠責保険が「非該当」と判断した理由は、①画像所見と整合する神経学的な異常所見の存在が認められないという点と、②治療状況や症状経過に照らすと、将来的にも回復困難な障害とは認められないという点の2点にありました。

    しかし、医療記録を細かに検討していくと、①の点については、MRI画像上は、頚椎椎間板ヘルニアの存在は明らかですし、このヘルニアの発症部位に対応する左上腕部にしびれや放散痛などの神経症状が確認できることから、むしろ画像所見に整合する神経学的な異常所見が認められやすいケースと考えられました。

    また、②の点についても、たしかに通院頻度は必ずしも高かったわけではありませんが、それは被害者が生計を維持する上で、治療よりも仕事を優先する必要があり、通院のための時間を十分に確保できなかったためであり、症状が軽いために通院の必要性が低かったというケースとは事情を異にしていました。

     

    「非該当」から12級13号へ

    当初の自賠責保険における「非該当」という認定結果は、このような点の検討が不十分であったことが原因と考えられたため、依頼者と協議の結果、自賠責保険に異議申立てをすることにしました。

    異議申立ての中では、①については、自賠責保険に未検討と考えられた医療記録を追加で提出し、その記載内容から被害者の神経学的な異常所見の存在が医学的にどのように裏付けられるのかを説明しました。また、②については、被害者の生活状況、就労状況など、これも自賠責保険が把握していないであろう事情を説明することで、当初の認定結果に対する反論を組み立てました。

    このような異議申立ての結果、無事に非該当の結果が覆り,12級の認定を得ることができました。

    【事例2】民事訴訟により、14級から12級になったケース

    このケースは、交通事故後に腰痛や下肢のしびれなどが発生し、腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けていていて,自賠責保険による後遺障害等級の認定結果は14級でした。

    このケースは、椎間板ヘルニアの発症により、それまで就いていた仕事が思うようにできなくなり、勤務先の会社も退職せざるを得なくなったという経緯があり、被害の実態としては肉体的にも経済的にも深刻でした。

    そのため、当初は自賠責保険に異議申立てを行ったのですが、14級の結果が覆らなかったことから、裁判の中で等級を争うことにより、12級の等級を目指すことになりました。

     

    14級の理由は…

    自賠責保険の異議申立てに対する回答の中では、カルテに記載されている椎間板ヘルニアの症状が一貫していないことや、MRI画像で椎間板ヘルニアによって神経が圧迫されていることが確認できないことなどを理由に、12級の後遺障害には該当しないと結論付けられていました。

    しかし、私が懇意にしている協力医に画像を見てもらったところ、椎間板ヘルニアによる神経の圧迫像が確認できるという回答でしたし、私がMRI画像を見てみても、やはり椎間板ヘルニアによる神経の圧迫像をはっきり確認することができましたので、自賠責保険の判断は間違っている可能性が高いと考え、裁判に踏み切りました。

     

    裁判により14級の後遺障害等級から12級の等級認定へ

    裁判の中では、相手の保険会社は、自賠責保険と同じ理由を指摘し、14級の後遺障害だと主張をしてきました。

    こちらは協力医に意見書を作成してもらい、それを裁判に提出などして、裁判官に後遺障害の実態が理解しやすいように裁判を進めていき、最終的には裁判官にも12級であることを認めてもらい,12級を前提とする和解を成立させることができました。

    後遺障害等級の認定に関する大きな2つの問題点

    上記でご紹介した2つの事例は、自賠責保険が後遺障害等級の認定において消極的な判断をしたことで弁護士として介入することになった事例です。

    交通事故によって椎間板ヘルニアを発症したケースでは、このように消極的な判断がなされることが多いと感じており、その原因としては「椎間板ヘルニアの特性」と「自賠責による等級認定のあり方」の2つの問題が大きく関わっていると考えられます。

    1・椎間板ヘルニアの特性による問題

    交通事故の発生時期と診断時期のズレ

    椎間板ヘルニアによる痺れなどの神経症状は、事故後一定期間経過した後にカルテ等に記載されるということがよく起こります。

    診察当初から椎間板ヘルニアの症状が目立つケースでは、カルテ上も初期の段階から椎間板ヘルニアに注目した記載が多く残されることになります。

    しかし、例えば診察の初期のうちに全身痛があり、椎間板ヘルニアの症状が当初は突出して目立つわけではないというようなケースでは、被害者の訴え方次第では、初期のカルテには椎間板ヘルニアに関する記載がなく、全身痛が治まったころから、椎間板ヘルニアに関する記載が出てくるということがあります。

    そのため、MRI検査などの椎間板ヘルニアの確定のための検査のタイミングも遅れ、椎間板ヘルニアの診断自体が事故発生と離れた時点で行われるということも決して珍しくありません。

    このようなケースでは、椎間板ヘルニアが交通事故によって発生したものか不透明であるという捉え方をされ、むしろ交通事故後に交通事故とは別の原因が発生して、椎間板ヘルニアを発生させた可能性を疑われることになり、後遺障害等級が消極的に認定されやすくなるという問題があります。

     

    加齢による発症の可能性

    一般的には、椎間板ヘルニアは、交通事故などの外傷によって発症するものだけでなく、加齢によって、椎間板の弾力が失われていく中でヘルニアが発生するということも多いとされています。

    そのような加齢による椎間板ヘルニアでは、ヘルニア発生後も自覚症状がない状態が続き、椎間板ヘルニアの自覚がないうちに交通事故に遭い、その事故が契機となって椎間板ヘルニアの自覚症状が発生するということも珍しくありません。

    このような経過であったとしても、交通事故によって椎間板ヘルニアの症状がはじめて発生したため、法律的には損害賠償請求は成り立ちます(交通事故前から無症状の椎間板ヘルニアを持っていたという素因があるため、賠償額は減額されます)。

    しかし、交通事故前から椎間板ヘルニアを持っていた可能性が高いということで、整形外科医の先生の中には、交通事故と椎間板ヘルニアの発症との因果関係を認めることに消極的な方もいらっしゃいます。

    このような考え方を持っている先生は、それが後遺障害に関する診断書の書き方にも現れますので、自賠責保険の後遺障害等級の認定手続でも消極的な認定に繋がりやすくなります。

    2・自賠責による等級認定の問題

    認定作業の担当者が医学的な専門知識を有していない?

    同じMRI画像を見ているのに、私たちと自賠責保険の見立てが正反対なものになるというケースがあります(【事例2】がまさにそういうケースです)。

    このようなズレが生じる原因としては、自賠責保険で後遺障害等級の認定作業を担当している方々が必ずしも医学的な専門知識を有しているわけではないという点があるのではないかと思います。

    後遺障害等級の最初の審査では、本当にMRIなどの画像を確認した上で認定したのだろうかと感じる結論や理由が示されることが珍しくありません。

    これは、上記の椎間板ヘルニアの特性から自賠責保険自体が認定に消極的だという背景があるのかもしれませんが、画像の見方が整形外科の専門医と180度異なるというケースを見ていると、単純に画像の読み方がわからずに消極認定されているケースも相当数あるのではと思います。

    椎間板ヘルニアの受診の際の注意点

    このような椎間板ヘルニアの後遺障害等級の消極認定の原因を考えていくと、椎間板ヘルニアのケースでは、被害者の心構えとして、そのときどきの症状の変化を主治医に繰り返し強く訴えていくということが必要と感じます。

    これは椎間板ヘルニア以外のケースにも言えることです。交通事故による怪我で診察を受けるときは、是非、このような心構えで診察を受けていただければと思います。

    また、【事例1】で見たとおり、通院が不定期であるという点も後遺障害等級の認定の際にはマイナス要因となります。

    なかなか仕事の状況によっては、定期的な通院というのは難しいこともあるとは思いますが、病院への通院が時間的に難しければ、主治医に相談して整骨院に通うなどすることにより、引き続き治療が必要な状態にあるということをわかる状態にしておくという配慮も必要となることがあります。

    是非これらの留意点を踏まえて、交通事故後の治療に臨んでいただければと思います。

    まとめ

    自賠責保険の後遺障害等級の認定結果がすべてではありません。

    特に椎間板ヘルニアのケースについては、弁護士と専門医の適切なサポート受けることができれば、より上位の後遺障害等級を獲得することができるケースは多いはずだと思います

    ほっかい法律事務所では、後遺障害等級認定の異議申立てにも積極的に取り組んでいます。当初の認定結果を見ただけで諦めず、是非一度ご相談ください。

     

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