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マンションの滞納管理費の回収方法 ~交渉や競売で回収するケース~ ほっかい法律事務所大崎 康二札幌市内の分譲マンションは昭和54年ころから順調に数を増やしており、平成27年の札幌市の統計では棟数が約3,670棟、戸数が約17.4万戸とされています。
このような分譲マンションの増加に伴ってのことだと思いますが、近年はマンションの管理費滞納案件も増加しており、滞納管理費の回収を依頼を受ける機会が増えています。
平成27年の札幌市の調査によると、市内の約40%のマンションで管理費を3か月以上滞納している事例があるということですので、札幌でも相当数の管理費の滞納案件が発生しているということが言えそうです。
マンション管理費滞納の背景には、札幌市内の経済状況及び雇用状況の悪化という面もあるように思いますので、この傾向は今後も続くものと思います。
そこで今回はマンションの滞納管理費回収の交渉方法と不動産競売による回収方法についてお話します。
交渉による滞納管理費の回収
滞納管理費の回収の交渉スタート
弁護士として滞納管理費の回収に着手する場合、いきなり訴訟提起するということは少なく、多くのケースでは滞納者との交渉から入ることになります。
管理費を滞納している間は日々遅延損害金が発生し、管理組合に対する債務額が増え続けていく状態にあるので、滞納状態はできるだけ早期に解消するのが当事者双方にとって有益です。
そのためには、滞納している方から一括で支払っていただくことがベストであり、交渉の際もまずは一括払いを求めていくことになります。
もっとも、一括払いが可能となるのは親族等の協力が得られるなどの例外的なケースに限られるため,ほとんどのケースでは分割での支払いを求めていくことなり、滞納している方から分割払いの計画案を出していただくことなります。
分割払いを認めるかを検討するに際しては、家計の収支が悪化している状況で本当にその計画どおりの支払いができるのかという点は常に問題となるため、家計の収支に関する資料を提出いただいたり、場合によっては家計の収支改善のアドバイスもしながら分割払いの金額やスケジュールを決めていくことになります。
ただし、ケースによっては家計の収入が途絶えているという場合もあり、このような場合には分割弁済の計画を立てることができませんので、次の手段として不動産競売による滞納管理費の回収を考えることになります。
滞納管理費の回収に関する弁護士費用は誰が負担するのか?
このように交渉で解決する場合に問題になることがあります。それは弁護士費用の負担の問題です。
弁護士費用は依頼者である管理組合が負担することになりますが、管理組合の理事者の立場としては、できる限り弁護士費用という回収コストも滞納者に負担してもらいたいというのが当然の感覚です。
しかし、弁護士費用を滞納者に負担させるためには、管理規約上に管理費督促のための弁護士費用を滞納者負担とするという条項を入れておく必要があり、管理規約にこのような条項がなければ、弁護士費用を滞納者に請求することは法律上は認められないことになります。
そのため、管理規約に上記の弁護士費用の負担条項がない場合には管理規約の改正手続からお手伝いすることもあります。
マンションの滞納管理費を不動産競売で回収するケース
交渉による回収が上手くいかず滞納管理費の支払がされない場合には、不動産競売による回収を考えます。
任意売却が優先だが不動産競売にかけるケースも
管理組合が持っているマンションの管理費請求権には、法律によって先取特権という担保権が与えられています。
この担保権の存在によって、管理費に滞納があった場合には管理組合はいつでも滞納のあった部屋を不動産競売にかけることができます。
不動産競売は強制執行手続きの一つですが、一般の強制執行手続きを行うためには、その前提として民事訴訟を起こして勝訴判決を得て、その勝訴判決に基づいて強制執行手続きの申立てをする必要があります。
しかし、先取特権のような担保権が存在するケースでは、勝訴判決がなくとも担保権に基づいて強制執行手続きの申立てをすることが認められているので、マンションの管理費については管理組合は民事訴訟を起こさなくても、先取特権に基づき不動産競売を行なうことができるのです。
滞納管理費に関して民事訴訟を提起しなければならないのは、先取特権の対象外物件を不動産競売にかける必要があるなどの場面に限られており、管理費の滞納案件での民事訴訟を提起している例は少ないはずです。
管理組合としては、滞納している方との交渉が決裂した時点ですぐに不動産競売を申立てることもできるのですが、「不動産競売は手続が完了するまでに時間を要する」「競落価格が低額になるリスクがある」といったデメリットがあります。
他方で、滞納している方が滞納のあった部屋を任意に売却する場合には「競売よりも高額で売却できる可能性がある」「ケースによっては引っ越し費用等の支出ができる」「売却までが早い」といったメリットがあるため、滞納されている方にはまずは任意売却で進めること提案することになります。
任意売却ができないケース
私の経験ではこのような交渉を経ることで大半のケースは任意売却により解決に向かっていくのですが、中には任意売却ができないケースもあります。
任意売却ができないケースには、滞納している方が任意売却に同意しないケースのほかに,住宅ローンの債権者から抵当権抹消(マンションに付いている担保を取り外すこと)の同意が得られないケースがあります。
マンションの任意売却に際して買い手がつく条件として、マンションに住宅ローン債権者の抵当権が設定されている場合には、任意売却による不動産売却代金の中から住宅ローンの残債務を全額支払い、抵当権を抹消する必要があります。
そのため、任意売却をするに際しては、住宅ローンの債権者から抵当権抹消の同意を得る必要があるのですが、任意売却したとしても,住宅ローンの残債務を返済にするのに不足する場合には、抵当権抹消の同意を得られない場合が出てくるのです。
このように、滞納している方や住宅ローン債権者の意向により任意売却が進められない場合には、いよいよ不動産競売の申立てに進むことになります。
不動産競売による滞納管理費の回収方法
不動産競売の手続きとメリット
マンション管理費の請求権には、区分所有法という法律によって先取特権という担保権が付与されているため、民事訴訟を提起し勝訴判決を得なくても直ちに管理費滞納の対象となっているマンションの不動産競売を申立てることができます。
不動産競売の申立に際しては、競売の手続費用として、裁判所に予納金(札幌ではマンションの広さにもよりますが、50万円前後とされることが多いと思います。)を納付する必要があり、これは管理組合の負担になりますが、競売成立後は競売による売却代金の中から優先的に返還されます。
不動産競売が順調に進めば、競売による売却代金の中から管理費用の回収を図ることができますし、何より滞納している方の意向に関わらず強制的に手続きを進められるという点にメリットがあります。
このような強制的な手続きであることから、任意売却に同意しなかった滞納者が不動産競売の申立てをきっかけに、いよいよ観念して任意売却に応じるというケースもあり、不動産競売の申立は管理費回収のための有力な手段になっています。
無剰余取消により競売が難しいケースも
しかし、どのようなケースであっても不動産競売を申立てることで順調に管理費の回収ができるというわけではありません。
不動産競売には無剰余取消というルールがあり、競売によって見込まれる競落価格が抵当権者などの担保権者の債権額に満たず、競落代金を担保権者などに優先配当した後に、残余が出ないと見込まれる場合には、裁判所が職権で不動産競売手続を取消すこととされています。
住宅ローンの残債務が大きく残っている場合には、この無剰余取消によって、不動産競売が取り消されることになるので、先取特権に基づく不動産競売を進めることができなくなります。
その場合には、次の手段として区分所有法59条に基づく不動産競売(59条競売)による管理費の回収を検討することになります。
59条競売で滞納管理費の増加を防ぐ
この59条競売は形式競売と言われる特殊な競売手続であり、通常の不動産競売とは異なり無剰余取消ルールが適用されません。
そのため、多額の住宅ローンが設定されていても不動産競売を進めることができるのですが、59条競売が認められるための要件は厳格に決められており、不動産競売に先立って民事訴訟を提起し、この中で59条競売の要件を満たすのかの審理を行い勝訴判決を得る必要があります。
この民事訴訟の中では滞納金額や滞納期間のほか、59条競売以外の回収方法による回収可能性なども慎重に検討した上で、59条競売の申立を許すのかについて裁判所が判断するのですが、どのような条件を満たせばクリアできるのかという点については過去の裁判例の集積も十分ではなく明確な見通しを立てにくい裁判でもあります。
また、59条競売のための民事訴訟の提起のためには管理組合総会における特別決議(区分所有者数と議決権総数の4分の3以上の賛成が必要)が要求されるため、裁判のための準備には時間と手間がかかります。
しかも、59条競売による競売が成立したとしても、売却代金は予納金と優先権のある担保権者に優先配当されますので管理組合に配当が残されることはほとんどありません。
競売によってマンションを新たに取得した方は滞納管理費も承継することになるので、この場合には新取得者の方に滞納管理費の請求を行うことになりますが、これでは新取得者が現れないことが懸念されるため競売を行う裁判所からは事前に滞納管理費の放棄を要求されることもあります。
59条競売の場合は滞納管理費の回収自体は難しく、むしろ発想としては健全な区分所有者に入ってもらって、将来の滞納金の発生を止めるというように割り切って考えることが管理組合としても必要となります。
マンションの滞納管理費の回収方法でお悩みの際は弁護士にご相談を
実際に弁護士を入れて滞納管理費の回収を行なうという場合、委任契約自体は理事会の判断で行なうとしても組合員への経過報告を行なうことが期待されます。
そのため、理事会からの要請を受けて弁護士として定期総会に出席し、今後の回収方針や弁護士費用の扱い等について説明することもあります。
管理組合によっては、定期総会において分割弁済を容認することについても異論が出ることもあり、この定期総会のサポートというのが受任弁護士として特に配慮しなければない点であると思いますし、年々そのウェイトが大きくなっていると感じています。
また、回収のために59条競売を行うということは、管理組合にとって簡単な決断ではありません。
59条競売が必要となるケースでは、管理組合総会に弁護士として出席し組合員の皆さまに十分な説明を行い、賛成を得られるようにサポートをすることも重要な業務になります。
59条競売は管理組合にかける負担も大きいことから、弁護士としてはできる限り59条競売に行く前に解決を図ることを第一に管理費の回収業務を進めていくことになります。
当事務所ではマンション滞納管理費など、債権回収に関する法律相談を行なっています。
債権回収でお困りの際には当事務所までお気軽にご相談ください。