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  • 民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)の改訂について
  • 民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)の改訂について
    ほっかい法律事務所
    綱森 史泰

    民事交通事故訴訟において損害賠償の基準として用いられている日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)について、2016年2月に2016年版が発刊されました。

     

    赤い本の算定基準の内容については年により見直しが行われておりますが、2016年版では死亡慰謝料と傷害慰謝料について基準の改定がありました。

     

    今回はこの2つの基準がどのように改定されたのかという点についてお話します。

     

    「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」とは?

    「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(いわゆる赤い本)とは、法曹関係者向けの交通事故の専門書で、交通事故における示談金・損害賠償金の基準として、実際の弁護士の実務で広く用いられているものです。

    交通事故の損害項目ごとに、損害賠償金の相場が掲載されている他にも、交通事故の裁判で参考になる判例や過失割合などの基準についても掲載されています。

     

    「赤い本」の他にもいわゆる「青本」と呼ばれる「交通事故損害額算定基準」と呼ばれるものがありますが、「青本」も交通事故の損害請求の算定基準を示したもです。

     

    「赤い本」と「青本」の違いについてはこちらの記事で詳しくご紹介していますので、是非ご覧いただければと思います。

    民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)と交通事故損害額算定基準(青本)の違いとは

     

     

    2016年版「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」の改定内容

    冒頭でもお話したように、2016年版の「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」では、死亡慰謝料と傷害慰謝料についての基準の改定がありました。

    どのような改定がなされたのか、それぞれのポイントについて見ていきましょう。

     

    死亡慰謝料に関する基準の改定

    死亡慰謝料に関しては、「母親・配偶者」の場合について、これまで2400万円とされていたのが2500万円に引き上げられました。

     

    また、「その他」(独身の男女、子供、幼児等)の場合についても、これまで2000万円~2200万円とされていたのが2000万円~2500万円に引き上げられました。

    引き上げ幅が大きくなっている「その他」の基準の改定理由については、子どもを中心とした若年の単身者について全国的な裁判例の水準が2200万円~2500万円の間にあり、従来の2000万円~2200万円との金額は基準として意味を失ったと判断されたことによるものとされています(2016年版赤い本下巻94頁)。

     

     

    傷害慰謝料に関する基準の改定

    傷害慰謝料については、旧基準において「通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがある。」(2.(1)第2文)とされていたところ、「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」と改定されました。

    この部分は、傷害慰謝料について、原則として入通院期間を基礎として入通院慰謝料表(別表I)により算定するとされていることの例外として規定されている部分ですが、今回の改定では、「不規則」という部分に特段の意味がないとして削除され、通院期間に基づく算定が原則であることを示すために目安とすること「も」あるとされたと説明されております(下巻95頁)。

     

    また、傷害慰謝料については、旧基準において「むち打ち症で他覚症状がない場合は別表IIを使用する。この場合、慰謝料算定のための通院期間は、その期間を限度として、実治療日数の3倍程度を目安とする」(2.(4))とされていたところ、「むち打ち症で他覚症状がない場合等(注)は入通院期間を基礎として別表IIを使用する。通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」「(注)「等」は軽い打撲・軽い挫創(傷)の場合を意味する。」と改定されました。

    この改定に関しては、通院期間が短期の場合、旧基準よりもかなり高い金額が認定される傾向が認められており、実治療日数の3倍程度を通院期間とする基準は裁判の実態を反映していないとの指摘がなされており、別表Iに関する場合と同様に、入通院期間による算定を原則とした上で、通院が長期にわたる場合を例外と位置付けたものと解されます(下巻95頁)。

     

    また、別表IIを使用する場合について、むち打ち症で他覚所見のない場合「等」と付け加えられた点については、従来からむち打ち症で他覚所見のない場合以外でも軽度の打撲・軽度の挫創(傷)の場合には別表IIが使用されているとの指摘があり、これらの場合を含むことを明確化したものとされております(下巻95-96頁)。

     

     

    交通事故の損害賠償でお困りの方は当事務所までご相談下さい

    以上のような基準の改定については、交通事故損害賠償請求訴訟における損害の算定に影響することはもちろん、保険会社との間の示談交渉にも影響を与えるものですので、十分に留意することが必要であるといえます。

     

    また、赤い本に掲載された裁判例を示談交渉等の場面における根拠として用いる際には、その裁判例がどのような具体的事案に対する判断であったのかを知るだけではなく、裁判例の全文を確認する必要があるため、一度弁護士などにご相談いただければと思います。

     

    当事務所でも電話・メールによる交通事故無料相談を実施しておりますので、交通事故の損害賠償でお困りの方は是非お気軽にご相談ください。