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  • 交通事故で人身傷害補償保険を利用した場合の過失相殺と訴訟基準差額説
  • 交通事故で人身傷害補償保険を利用した場合の過失相殺と訴訟基準差額説
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    交通事故にあってしまった場合、被害者は相手方の保険会社に損害賠償請求をすることができます。

    しかし、交通事故のほとんどの場合で、請求額は「過失相殺」によって減額されてしまいます。

    今回は交通事故の過失相殺について、過失割合の決まり方と過失相殺の計算方法をご紹介します。

    また過失相殺が問題となるケースで人身傷害補償保険金を受領した場合の損害賠償額の計算方法と訴訟基準差額説について被害者に有利となる訴訟基準差額説などについても解説していきます。

    過失割合の決まり方と過失相殺の計算方法とは?

    過失相殺とは

    交通事故による損害賠償請求では、事故態様によっては、加害者側から交通事故の発生に被害者にも過失があったとして、損害賠償額の減額を主張されることがあります。

    このように被害者側の過失に応じて、損害賠償額を調整することを「過失相殺」といいます。

    たとえば、交通事故によって総額1000万円の損害が発生したケースで、交通事故の発生に被害者に20%の過失がある場合、被害者が請求できる損害賠償額は、損害総額1000万円から過失割合分が減額された800万円となります。

    過失割合の決まり方

    ところで、この過失割合というのは、どのように決まるのでしょうか。

    交通事故で過失相殺が問題となるケースは非常に多く、それに関する裁判例も多く積み重ねられています。

    このような膨大な裁判例を整理、分析した書籍として、東京地裁民事交通訴訟研究会が編者となっている民事交通訴訟における過失相殺率の算定基準シリーズがあります。

    現在は平成26年7月発行の「別冊判例タイムズ№38 民事交通事故における過失相殺率の算定基準 全訂5版」が裁判版となっています。

    この書籍は東京地裁の現役の裁判官たちが執筆したもので、交通事故を事故の当事者や状況に応じて338類型に分けて、類型ごとに基本となる過失割合と修正要素を紹介しています。

    現在の交通事故の損害賠償訴訟における過失割合の認定は、ほぼこの書籍の分析に従って行われていますし、保険会社との示談交渉においても、この書籍の分析をベースに示談交渉が行われています。

    このように過失割合の認定については、その基準はほぼ確定しているため、あとはその交通事故が338類型のどの類型に該当するのか、該当する類型が決まったとしてこの書籍で紹介された修正要素の存在が認められるのかという形での争われることになります。

    過失割合に関する証拠

    このような争い方になるため、事故態様に争いがある場合は、警察が作成した実況見分調書を取り寄せ、証拠として活用することが重要となります。

    また、実況見分調書は事故現場の平面図なので、事故現場を立体的に理解するために、事故現場の写真を提出することも一般的に行われています。

    中には、337ある類型のどの類型にも当てはまらない事故もあります。

    その場合にはその交通事故と近い状況で発生している事故に関する裁判例を調査することで、あるべき過失割合を探っていくことになります。

    過失相殺の計算方法

    過失相殺の計算は、加害者の保険会社が治療費を支払うなど、示談前に損害賠償金の一部が支払われている場合には、少し複雑になります。

    たとえば、上記のケースで被害者が怪我をしていて、その治療に100万円がかかったとします。

    この場合の治療費は加害者が交通事故の責任を否定しているような例外的なケースを除いては,普通は被害者が病院に直接支払うのではなく、加害者の保険会社が損害賠償の一部として病院に支払うことになります。

    この事前に支払われた治療費の扱いですが、示談においてはこの治療費は支払済みの損害賠償金として、損害賠償額から差し引かれることになります。

    上記のケースでは過失相殺によって損害賠償額は800万円となっていますので、既払金の治療費100万円を差し引いた700万円が請求可能な損害賠償額となります。

    過失相殺と既払金の計算順序

    間違ってはいけないのは過失相殺と既払金の計算順序で、先に過失相殺の計算を行った上で既払金を差し引くという順序になります。

    既払金と過失相殺の順番を逆にすると、1000万円から既払金100万円を差し引いた900万円について20%の過失相殺を行うことで、損害賠償額は720万円と計算されることになりますが、そのような順番では計算をしないということです。

    これが過失相殺の計算方法の基本になりますが、応用問題として、このように過失相殺が問題となるケースで、さらに人身傷害補償保険を使って保険金を受け取っている場合には、損害賠償額はどのように計算されるでしょうか。

    これが次のテーマです。

    過失相殺が問題となるケースで人身傷害補償保険を利用した場合の損害賠償額の計算方法は?

    人身傷害補償保険の利用と損益相殺

    交通事故の被害に遭って怪我などの人身損害が発生した場合、多くのケースでは事故の加害者の保険会社が治療費や休業損害等の支払対応をすることになります。

    しかし、加害者自身が事故の内容を認めなかったり、責任を争っている場合には、加害者の保険会社が支払対応を行なわないことがあります。

    このようなケースで、被害者が自分の自動車保険に人身傷害補償特約をつけている場合、被害者は自分の自動車保険の人身傷害補償保険を利用して治療を受けることが考えられます。

    人身傷害補償保険を利用した場合、人身傷害補償保険で支払われた金額は加害者に対して請求できる損害賠償額から差し引かれることになります。

    このように交通事故によって被害者が第三者から給付を受けるなど利得を得た場合に、その利得を損害賠償額から差し引くことを「損益相殺」といいます。

    一般的な損益相殺の計算方法

    たとえば、損害総額1000万円、治療費100万円の交通事故について、加害者の保険会社が治療費を支払わなかったために、人身傷害補償保険で治療費100万円を支払った場合、加害者に請求可能な損害賠償額は、損益相殺により900万円になります。

    そして、損益相殺で差し引かれた100万円については、それを負担した被害者の保険会社が加害者に対して、別途求償していくことになります。

    過失相殺と損益相殺が問題となるケースの計算方法

    では、損益相殺が問題となるケースで、過失相殺も問題となる場合、損益相殺による減額と過失相殺による減額をどのような順序で計算すればよいでしょうか。

    過失相殺が問題となるケースで既払金による減額が発生する場合の計算方法について、過失相殺を先に計算することは、「過失相殺と既払金の計算順序」で説明したとおりです。

    過失相殺と損益相殺が問題となる場合にも、同じような順序で計算すればよいのでしょうか。

    損益相殺が問題となる場面としては、被害者が人身傷害補償保険金を受領している場合のほか、労災保険を利用した場合や自賠責保険から保険金を受領している場合などがあります。

    もっとも、実務上特に問題となることが多く、裁判例も多く出されていたのは、人身傷害補償保険金を受領しているケースですので、以下ではこのようなケースについて解説をしていきます。

    過失相殺が問題となるケースで人身傷害補償保険を利用した場合の計算方法-訴訟差額基準説-

    この場面での計算方法については、以前は保険約款で明確に規定されていないため、考え方が分かれていた時代もありました。

    しかし、平成24年2月に最高裁判決が出たことで、少なくとも実務上の扱いについては論争が終結し、各保険会社の保険約款もこれに沿った内容に変更されています。

    最高裁が採用した考え方は「訴訟基準差額説」と呼ばれるものです。

    これは、裁判基準で計算される損害賠償額を前提に、過失相殺後の損害賠償額から人身傷害補償保険金を損益相殺する際に、人身傷害補償保険金額から先に計算した過失相殺額を控除した金額を限度に損益相殺を認めるという考え方です。

    訴訟基準差額説に基づいた過失相殺の計算方法

    文章での説明だと非常に理解が難しいので、具体例を使って説明します。

    たとえば、損害総額1000万円、人身傷害補償保険金400万円、被害者の過失割合30%というケースで、治療費の支払に人身傷害補償保険を利用したとします。

    この場合の過失相殺後の損害賠償額は、損害総額1000万円から過失割合30%に応じた300万円を差し引いた700万円となります。

    そして、損益相殺については、人身傷害補償保険金が400万円ですので、この全額を差し引いて、700万円-400万円=300万円の限度で損害賠償を認めるという考え方もありうるところです。

    しかし、訴訟差額基準説では、人身傷害補償保険金400万円の全額を差し引くのではなく、人身傷害補償保険金400万円から先に過失相殺した300万円を差し引いた100万円の限度で損益相殺を認めます。

    その結果、損害賠償額としては、過失相殺後の700万円から100万円の限度で損益相殺することになり、結論としては600万円の損害賠償請求が認められることになります。

    人身傷害補償保険を利用することで過失相殺による不利益が解消?

    この具体例で、仮に被害者の過失が0%で過失相殺がなかったとした場合、損害賠償額は損害総額1000万円から人身傷害補償保険金400万円を差し引いた600万円となります。

    これは訴訟差額基準説によって計算される損害賠償額と同じ金額です。

    言い方を変えれば、訴訟差額基準説を採用すれば、被害者の過失の有無と程度にかかわらず、同じ金額の損賠賠償請求が実現することになります。

    このように見てみると、訴訟基準差額説は、被害者が人身傷害補償保険を利用した場合に、過失相殺による被害者の不利益を全額補填させる働きを持っていると言うことができそうです。

    最高裁としては、人身傷害補償保険の持つ被害者救済の機能を重視し、尊重することで、訴訟差額基準説を採用したという言い方もできるかもしれません。

    保険会社との示談交渉における注意点

    このようにこの論点については最高裁判例も出されているところですので、保険会社との示談交渉においても、訴訟差額基準説を前提に交渉を進んでいくのが普通です。

    ところが、加害者側の保険会社と交渉をしていると稀にではありますが、「訴訟基準差額説」の理解がない担当者に当たることがあります。

    上記の具体例でいうと、過失相殺後の700万円から人身傷害補償保険金400万円を全額差し引いた300万円の支払を提示してくることがあるということです。

    このような場合には、最高裁判例の存在を指摘することで、本件会社側も訴訟差額基準説を前提とする示談に応じるのが通常だとは思います。

    しかし、被害者側が何も指摘しなければ、被害者に不利な示談が締結されてしまいますので、十分に注意が必要です。

    人身傷害補償保険の加入メリット

    訴訟差額基準説が採用された結果、人身傷害補償保険があれば、過失相殺が問題になる場面であっても、過失相殺がない場合と同額の損害賠償を受けることできます。

    その意味では、人身障害補償保険のメリットは大きいので、自動車保険の契約をする際には、人身傷害補償保険の加入を積極的に検討すべきだと思います。

    また、人身傷害補償保険を利用しても保険等級は下がりませんので、過失相殺が問題になる事故に限らず、積極的に人身傷害補償保険を利用していくべきといえます。

    (ただし、人身傷害補償保険と同時に対人賠償や対物賠償、車両保険などを使えば、その分等級は下がります。)

    交通事故の過失相殺で困ったらすぐに弁護士に相談を

    交通事故の被害者は、示談交渉までの過程で様々な問題に直面することになります。

    たとえば,保険会社と対応すべきなのか、人身傷害補償保険を使うべきなのか、これを使ったとして賠償額がいくらになるのかといった問題です。

    これらの問題について、被害者が個人で適切に判断し、対応することができるケースもあると思いますが、実際にはそれが難しいケースが多いのではないでしょうか。

    交通事故に遭った場合、どこかの時点で必ず弁護士に相談をすることが重要と思います。

    交通事故の被害に遭われた方は、当法律事務所へぜひお気軽にお問い合わせください。

    また、当事務所では交通事故の法律相談については、何度でも無料で相談できますので、事故直後であっても遠慮なくご利用ください。