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  • 弁護士が成年後見人に選任されるケースと専門職後見人の報酬に関する問題
  • 弁護士が成年後見人に選任されるケースと専門職後見人の報酬に関する問題
    ほっかい法律事務所
    大崎 康二

    認知症などによって判断能力が低下した高齢者について、成年後見の開始審判の申立をした後に誰が成年後見人になるのか?

    この問題は本人と家族にとっては重要な問題です。

    家族としては、自分たちが後見人になろうとして成年後見の申立を行ったとしても、その希望が通るとは限りません。

    成年後見人には、家族ではなく、弁護士などの専門職が選ばれることがあります。

    今回は、そもそも成年後見とは何か、また専門職後見人が選ばれるケース、その報酬に関する問題などを詳しく解説していきます。

    成年後見とは?

    日本は超高齢者社会に突入したと言われており、総務省統計局によれば、現在総人口の中に65歳以上の高齢者が占める割合は、28.7%とされています(令和2年9月時点)。

    高齢化社会の中では、たとえば認知症が進んで判断能力が低下した場合に、自宅での介護が難しくなり、施設入所が必要になるという場面も多く発生します。

    このような場合、施設との入居契約をどのように締結すればよいのでしょうか。

    判断能力の低下が軽い場合には、本人が施設と直接契約することもできますが、認知症の程度によっては、本人が契約内容を正しく理解することができず、場合によっては署名、押印も難しいという場合があります。

    このような場合には本人自身が契約締結をすることは難しいため、本人にかわって契約締結をする人間が必要になります。

    このとき、家族が本人にかわって契約締結をするということも考えられますが、家族というだけでは何の代理権もありませんので、本人名義での契約はできませんし、家族名義で契約をした場合は、法的には施設利用料を本人の財産から支出できないという問題があります。

    このような場合に家庭裁判所によって選任されるのが「成年後見人」(もしくは保佐人、補助人)です。

    成年後見というと認知症高齢者の場合に利用されるイメージが強いかもしれませんが、高齢者の場合に限らず、知的障害や精神障害が原因で判断能力が低下している場合にも成年後見等は多く利用されています。

    成年後見人等の業務とは?

    成年後見人等が行うべき業務内容は、大きくは「財産管理」と「身上監護」に分かれます。

    「財産管理」とは、本人の財産を管理・保全する行為であり、「身上監護」とは、本人の生活、治療、療養、介護などに関する行為を指します。

    「財産管理」には、病院代や公共料金の支払いなど本人の金銭管理のほか、ケースによっては本人名義の不動産の管理、本人が相続人となっている遺産分割協議、本人に関する損害賠償の請求などが含まれます。

    「身上監護」には、本人の生活環境の整備、施設等への入退所の手続、本人の治療や入院の手続などが含まれます。

    また、財産管理業務、身上監護業務の一環として、裁判所への定期報告を行うことが義務付けられていて、たとえば札幌家裁の運用では本人の誕生月にその1年間の業務報告を行う必要があります。

    成年後見人の選任の実際は?

    成年後見人等には、本人に関する代理権が与えらえれているため(代理権の範囲は、成年後見人、保佐人、補助人で異なります)、本人にかわって正当に契約行為を行うことができるのです。

    このような成年後見人等が選任される場合、家族にとっては誰が成年後見人等に選任されるのかは大きな問題です。

    成年後見人等の選任は、親族等から成年後見等開始審判の申立を受けて、家庭裁判所の裁量によって決められます。

    裁判所が成年後見人等として選任するのは、親族か親族以外の第三者であり、親族以外の第三者というのは、主には弁護士、司法書士、社会福祉士等の有資格者(専門職)です。

    成年後見等開始審判の申立の際には、申立人が希望する成年後見人等の候補者を上げることができるのですが、実際に選任される成年後見人等は必ずしも申立人が希望する候補者と一致するわけではありません。

    たとえば、家族が自分で成年後見人等をやろうと思って、自らを成年後見人等の候補者として審判を申立てても、家庭裁判所が別の弁護士や司法書士を成年後見人等として選任するということがあるのです。

    逆に、成年後見人等の候補となるべき家族がいない場合には、成年後見人等の候補者を上げずに審判の申立をすることになり、その場合には親族以外の第三者の中から成年後見人等が選任されることになります。

    最近の全国統計では、平成31年1月から令和元年12月までに選任された成年後見人等のうち、78.2%で専門職後見人だったというデータが公表されています(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」)。

    このうち、家族が希望した候補者が成年後見人等として選任されなかったケースがどれだけ含まれるのかについてのデータはありませんが、成年後見人等の選任に関する家族の意向が通らないケースの方が一定数あることは間違いありません。

    成年後見人等として弁護士が選任されやすいケースとは?

    では、家庭裁判所はどのようなケースで専門職後見人を選任しているのでしょうか。

    特に弁護士後見人が選任されるケースを見ていきましょう。

    法律的な専門知識が必要なケース

    専門職後見人が選任されるケースでもっとも典型的なのは、想定される後見業務の内容から、家族が成年後見人等として業務を行っていくことが困難と考えられるケースです。

    弁護士が成年後見人等として選任されるケースでいえば、法律的な専門知識が必要となるため、弁護士を成年後見人等として選任することで、その弁護士を法律事務に当たらせるケースがあります。

    たとえば,以下のようなケースでは法的知識に基づく対応が必要となるため、弁護士が選任されやすいといえます。

    ・本人名義の不動産が多数あって、その中に賃貸物件や空家などがあり、不動産管理に伴う法的対応が必要となることが予想されるケース
    ・本人が相続人となっている相続問題があって、他の相続人との間で遺産分割協議を行う必要のあるケース
    ・交通事故や介護事故など損害賠償問題があって、加害者に対する賠償金の請求と回収が必要となるケース

    これらのケースでは、成年後見人等に選任された弁護士がすべて成年後見人等として対応することになります。

    家族にとっては、自分たちで弁護士を探してきて依頼をするといった煩雑さはありませんので、家族としては成年後見等の開始審判さえ申立てれば、あとは裁判所と弁護士がすべて進めてくれるという意味では、弁護士後見人が選任されるメリットが感じやすいかもしれません。

    一定額以上の預貯金等の流動資産の管理が必要となるケースでも弁護士が選任されますが、これも同じ観点から弁護士が選任されていると思います。

    親族間に紛争があるケース

    また、家族内に紛争があって、家族の一人が成年後見人等として選任されることに他の家族が同意しないケースでも、弁護士や司法書士といった専門職後見人が選任されます。

    成年後見等の開始審判の申立においては、誰を成年後見人等として選任すべきかという点を含めて,必ず本人の推定相続人の意向調査が行われます。

    この意向調査で、申立人の上げた候補者を成年後見人等として選任することについて、推定相続人全員の同意が得られなければ、その候補者が成年後見人等として選任されることはありません。

    成年後見人等は、中立・公平な立場から業務を行っていくことが求められ、親族間の紛争に巻き込まれないためにも、推定相続人全員の意向を踏まえた人選が必要となるのです。

    虐待が疑われるなど対応困難なケース

    さらに、家庭内で身体的・経済的な虐待が疑われるケースのように、成年後見人等として対応が困難なケースでも弁護士などの専門職後見人が選任されることになります。

    このようなケースでは同居家族が虐待の加害者となっていて、同居家族以外の親族や地方自治体が成年後見人等に虐待問題の対応をさせるために、成年後見等の開始審判の申立がされるのが通例です。

    成年後見人等には虐待加害者との対応など非常に難しい対応が求められるため、特に弁護士などの専門職後見人が選任されています。

    弁護士などの専門職後見人の報酬に関する問題

    弁護士などの専門職後見人が選任される場合には、成年後見人等への報酬の問題が発生します。

    後見人報酬は、成年後見人等からの報酬付与審判の申立を受けて、裁判所が金額を決定していて、普通は年1回、成年後見人等が家庭裁判所に業務報告を行うときに、報酬付与審判も同時に申立てます。

    家庭裁判所は、報酬付与審判の申立を受けて、成年後見人等が管理する資産の規模や成年後見人等としての活動内容に応じて、年間の報酬額を決定します。

    そして、成年後見人等は、家庭裁判所の報酬付与審判を受けて、審判で認められた金額を本人の資産の中から後見報酬として受け取ることになります。

    しかし、家族の中には後見報酬が発生することやその金額に抵抗を覚える方もいて、家族が希望した候補者以外が専門職後見人として選任された場合には、家族にとっては後見報酬に対する不満が出やすいと思います。

    もっとも、本人に後見報酬を支払うだけの資産がない場合には、報酬付与の審判を申立ても、裁判所は報酬の発生を認めません。

    この場合には成年後見人等は無報酬で、いわばボランティアとして成年後見人等の活動を行うことになりますが、札幌で成年後見人等として活動している弁護士の大半は、このように無報酬で活動した経験があるのではないかと思います。

    このような無報酬案件に備えて、各自治体では成年後見人等の報酬助成制度を実施していて、この助成制度の対象となるときには、一定金額が助成されることになります。

    この報酬助成制度の適用条件は、自治体ごとに異なっていて、成年後見等の開始審判を自治体が申立てた場合(市長村長申立)には、どの自治体でも報酬助成制度を利用できますが、親族が申立てた場合(親族申立)には、報酬助成制度を利用を認めない自治体があります。

    この場合には、専門職後見人が完全に無報酬というだけではなく、交通費などの経費を持ち出ししながら成年後見人等としての活動を行っています。

    そのため、専門職団体は、地方自治体に対して、報酬助成制度の適用範囲を親族申立の事件にも拡張するように求めて活動しています。

    しかし、この問題については自治体によって動きに差があり,北海道ではまだまだ解決にはほど遠い状況と言わなければなりません。

    弁護士などを成年後見人にするケースを把握しよう

    これまで見てきた通り、専門職後見人(特に弁護士)が選任されるケースは、専門知識が必要なケースや家庭内紛争があるケース、家庭内では対応が困難だと判断されるケースなどです。

    専門知識をもってサポートしてくれるというメリットや、報酬が発生するというデメリットまで、正しい知識を把握しておきましょう。

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    あわせて参考にしていただければと思います。